ビザジャーナル
2025-11-06
永住許可制度の適正化と「取消事由」の新設に向けて

Q:報道などで「永住許可の取り消し理由が拡大する」と聞きました。具体的にどのように拡大され、それはいつから始まるのでしょうか?
A:令和9年4月1日から「永住許可の取り消し要件」部分が改正された改正入管法が施行される予定です。
令和7年9月29日に行われた第7回「出入国在留管理政策懇談会」の中で、永住許可制度の適正化についての議論がなされました。その資料が公表されましたので、どのような法改正がどのようなスケジュールで進められるのかを簡単に解説していきましょう。
なお、今回の法改正は、永住者の在留資格に関する「取消事由の追加」の他に、「通報制度の創設」などの制度運用の透明化を目的としています。
改正の背景 ― 「永住者の在留管理をより公正に」
永住者は、在留期間の更新手続を要しません(カードの更新のみでOK)。そのため、永住許可時の要件を後に満たさなくなる可能性があります。例えば、納税や社会保険料などの公的義務を履行しない、法令違反を繰り返すなどの事例です。
こうした一部の悪質な事例が放置されると「適切に在留している多数の永住者への不当な偏見を招くおそれがある」として、入管庁は、永住許可制度の適正化(=要件・取消事由の明確化)を図る方針を示しました。
新たに追加される取消事由(入管法第22条の4)
改正入管法では、永住者に限って以下の2項目が新たに追加されます。
| 新設された取消事由 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| ① 故意に公租公課の支払をしないこと | 税金・社会保険料など「公租公課」の支払義務を認識しつつ、支払能力があるにもかかわらずあえて支払わない場合。 | 第22条の4第1項第8号 |
| ② 特定の刑罰法令違反で拘禁刑に処せられたこと | 刑法や特定の特別刑罰法令により懲役・禁錮刑を受けた場合。過失犯や罰金刑のみの事案は対象外。 | 同第9号 |
これらの事由は、永住者の「素行善良要件」「日本国の利益に合致する要件」を永住許可後も担保するための仕組みとして導入されます。
判断基準の考え方(ガイドラインで明確化予定)
(1)「故意に公租公課の支払をしない」の判断要素
入管庁は、令和6年6月の国会答弁および懇談会資料において、次の2点を主要な判断要素としています。
- 支払をしないことにやむを得ない事情がないこと
病気・災害・失業等により支払不能な場合は「故意」には該当しない。 - 支払義務を認識しながら、あえて支払をしないこと
支払能力があるにもかかわらず、繰り返しの催告等にも応じないなど、誠実な意思が見られない場合。
「故意」とは、刑法上の故意と同義ではなく、入管法の目的(外国人の在留の公正な管理)に照らした行政的概念として限定的に解釈される。(出入国在留管理政策懇談会資料6頁、令和6年6月11日参議院法務委員会答弁)
(2)通報制度(第62条の2)の運用指針
- 国または地方公共団体の職員は、職務遂行中に取消事由該当の疑いを知った場合、任意で通報ができる。
- 通報の判断目安(「通報相当」と考えられる事例)として、次のような例が挙げられています。
- 財産があるのに、繰り返しの催告に応じない。
- 海外への不相当な送金や不要な支出を行っている。
- 今後も納付の見込みがない。
- 一方、以下のような場合は「通報不要」と整理されています。
- 納税の意思がある(分割納付や相談対応をしている)。
- 病気・災害・失業などの事情がある。
- 生活保護受給中で課税対象外。
(3)取消し・職権変更(第22条の6)の判断枠組み
入管庁は、取消事由に該当しても直ちに永住資格を失うのではなく、次のような段階的判断を行うとしています。
- 取消事由該当性の有無
(例:「故意に公租公課を支払わない」要件の充足) - 引き続き在留することが適当かどうかの総合判断
(生活状況、家族構成、納税意思、社会的定着など) - 適当でないと認められる場合のみ取消し。
その他の場合は、法務大臣の職権により在留資格変更(例:定住者等)を許可。
家族関係・人道上の配慮・再建意思などが認められる場合は、資格変更で対応することもあり得る。(懇談会資料8頁、法務大臣答弁)
今後のスケジュール
- 令和8年中:ガイドライン策定
- 令和9年4月:施行・ガイドラインに基づく運用開始予定
- それまでに、入管庁が以下を実施予定
- ガイドライン素案作成・パブリックコメント
- 地方公共団体・関連団体との協議
- 職員研修・周知活動
まとめ
今回の改正は、永住者の安定した地位を否定するものではなく、「悪質な事例に限定して取消・変更を可能にする」ことを目的としています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 公租公課の故意不払、入管法上の義務違反、特定刑罰法令違反 |
| 判断基準 | 「故意」「やむを得ない事情の有無」「社会的悪質性」を重視 |
| 手続 | 国・自治体の通報 (任意)→ 入管庁の調査・意見聴取 → 取消または職権変更 |
| 原則運用 | 永住者の定着性・人道的配慮を尊重し、取消は最終手段として限定的に運用 |
| 公表予定 | 入管庁がガイドラインを策定・公表し、透明性・公平性を確保 |
おわりに
永住資格の取消制度は、外国人の在留管理をより公正にする一方で、永住者の生活の安定や社会的定着にも大きく関わる制度です。
入管庁は今後、ガイドラインによる判断基準の明確化と慎重な運用を進める方針を示しています。
関係者は、今後の公表内容に注視しつつ、実務上の対応準備を進めることが求められます。