ビザジャーナル
2026-07-30
外国人向け「日本語・生活学習プログラム(仮)」とは

令和8年7月、法務大臣政務官を座長とするプロジェクトチームは、「日本語・生活学習プログラム(仮)」の創設に向けた報告書を公表しました。
このプログラムは、日本に中長期間在留する外国人に対し、日本語だけでなく、日本の制度、生活上のルール、社会規範などを体系的に学ぶ機会を提供しようとするものです。
現時点では、具体的な制度内容や開始時期が確定したわけではありません。
しかし、将来的には、在留期間更新許可、永住許可、帰化などの審査にも関係する可能性が示されており、外国人を雇用する企業にとっても重要な動きといえます。
プログラム創設の背景
報告書では、現在、日本には410万人を超える外国人が在留しており、多くの外国人が地域社会の一員として生活・活躍している一方、一部の外国人によるルールを逸脱した行為や制度の不適正な利用が、国民の不安や不公平感につながっていると指摘されています。
これまでも、政府は生活オリエンテーション動画や「生活・就労ガイドブック」、日本語学習教材などを提供してきました。
しかし、これらの利用は基本的に任意であり、外国人が体系的に学習する仕組みや、学習を促す明確な動機付けが十分ではありませんでした。
また、外国人が多く居住する地方公共団体や受入れ企業に、学習支援の負担が偏っていることも課題とされています。
そこで、国の責任において、全国共通の体系的な学習プログラムを整備する方針が示されました。
プログラムの目的
プログラムの大きな目的は、次の二つです。
一つ目は、外国人が日本語や生活上の制度・ルールを理解し、「責任ある社会の一員」として行動できるよう支援することです。
二つ目は、外国人が日本社会に円滑に適応できるよう、国が体系的かつ効果的な学習教材を提供するとともに、在留審査を通じて学習の動機付けを行うことです。
単に外国人の生活を支援するだけではなく、国民の安全・安心を確保し、秩序ある共生社会を実現するための社会基盤として位置付けられている点が、この制度の特徴です。
日本語学習と生活学習を一体的に実施
プログラムは、大きく「日本語学習」と「生活学習」の二つで構成される予定です。
生活学習には、例えば、次のような内容が含まれることが想定されます。
・日本の法令や行政制度
・税金、社会保険、医療制度
・雇用や労働に関するルール
・交通ルール
・ごみ出しなどの生活上のルール
・防災や災害時の対応
・出産、育児、教育、介護に関する制度
・地域特有の文化や生活慣行
日本語学習についても、単なる文法や語彙の習得ではなく、教育、就労、日常生活の場面における実践的なコミュニケーション能力を身に付けることが重視されています。
中期以降の学習では、「自立した言語使用者」として日本社会で生活できる水準を目指すとされており、政府の方針上は、「日本語教育の参照枠」におけるB1レベル相当が一つの目安として示されています。
入国前からオンラインで受講
プログラムは、入国後に初めて受講するのではなく、入国前から学習を開始できる仕組みとすることが想定されています。
具体的には、ICTを活用したオンデマンド教材を整備し、海外からでもスマートフォンやパソコンで受講できる環境を構築する方向です。
また、単に動画を見るだけの一方向型の教材ではなく、AIなどを活用した双方向型の学習や、理解度を確認するテスト機能を導入することも検討されています。
プログラムの内容は、次のように段階的に分けられる可能性があります。
入国前・入国直後の学習
日本で生活するために最低限必要な日本語、生活ルール、マナー、制度などを学習します。
「入国前に受講を求める内容」と「入国後一定期間内に受講を求める内容」を分けることも検討されています。
中期以降の学習
長期滞在や永住を希望する外国人を対象に、より高度な日本語能力や、日本の制度に関する幅広い知識を学習します。
出産、育児、教育、介護など、本人のライフステージに応じて学習内容を選択できる仕組みも想定されています。
対象者は中長期在留者を幅広く想定
報告書では、基本的に、中長期の在留を目的とする外国人を幅広く対象とする方向が示されています。
特に、これまで生活オリエンテーションや日本語学習の機会が少なかったと考えられる次のような外国人については、内容を充実させる必要があるとされています。
・家族滞在
・日本人の配偶者等
・定住者
・受入れ機関のない個人事業主
・外国人就労者に帯同する配偶者や家族
技能実習、育成就労、特定技能については、既に受入れ機関による講習や生活支援の仕組みがあります。そのため、既存制度による講習と、新しい学習プログラムとの重複をどのように整理するかが今後の検討課題となります。
在留期間更新や永住許可への反映
この報告書で特に注目すべき点は、プログラムの受講状況を在留審査に反映させる方針が示されていることです。
入国前・入国直後の学習については、在留資格認定証明書交付申請や在留期間更新許可申請など、学習の動機付けとなるタイミングで、受講状況を審査上の考慮事項とすることが検討されています。
さらに、中期以降のプログラムについては、次のような方向性が明記されています。
・永住許可申請において、プログラムの受講を許可要件とする
・永住許可を申請しないまま長期間滞在する外国人についても、一定の在留申請時に受講を許可要件とする
・永住許可や帰化の審査では、受講した事実だけでなく、内容を理解しているかも確認する
ただし、現時点では、「どの在留資格を対象とするのか」「何時間の受講を求めるのか」「どの程度の日本語能力が必要か」「いつから適用するのか」といった具体的な要件は確定していません。
あくまで、今後の制度設計に向けた検討の方向性が示された段階です。
受講状況を管理するシステムも構築
在留審査で受講状況を確認するためには、誰が、いつ、どの講座を受講し、どの程度理解したかを管理する必要があります。
そのため、報告書では、受講状況を一元的に管理するシステムの構築が必要とされています。
また、オンライン学習では、他人による代理受講やなりすましが発生する可能性があるため、本人確認や不正防止措置も重要な検討課題となります。
企業に求められる役割
外国人を雇用する企業にとって、この制度は外国人本人だけの問題ではありません。
報告書では、国が共通の日本語学習・生活学習コンテンツを提供することを前提として、外国人を受け入れる企業に対し、外国人本人とその家族への学習支援を、これまで以上に強く求める必要があるとされています。
具体的には、企業に次のような対応が求められる可能性があります。
・外国人従業員へのプログラムの案内
・受講状況の確認
・受講時間を確保するための勤務時間の調整
・オンライン学習に必要な端末や通信環境の支援
・家族を含めた生活学習の案内
・地方公共団体や日本語教育機関との連携
・在留期間更新前の受講状況の確認
PTのヒアリングでは、受入れ企業が勤務時間を調整し、外国人従業員が学習できる環境を整備する必要があるとの意見も示されています。
将来的にプログラムの受講が在留期間更新などの審査に影響することになれば、外国人本人が受講していなかったために、更新手続に支障が生じる可能性も考えられます。
企業としても、「本人に任せておけばよい」とするのではなく、在留管理と人材育成の一環として対応する必要が生じるでしょう。
すぐに義務化されるわけではない
今回の報告書は、法律や省令によって具体的な義務を定めたものではありません。
制度の対象者、学習時間、費用負担、受講方法、審査への反映方法などについては、今後、関係省庁や有識者との協議を踏まえて制度設計が行われます。
また、十分な試行期間を設け、試行結果や関係者からのフィードバックを踏まえて本格運用に移行することが望ましいとされています。
一方で、報告書では、制度の創設を「喫緊の課題」と位置付け、実施可能な部分から早期に運用を開始することも重視されています。
そのため、制度の具体化は比較的速いペースで進む可能性があります。
企業が今から確認しておきたいこと
現時点で、企業が直ちに新しい講習を実施しなければならないわけではありません。
ただし、今後の制度化に備え、次の点を確認しておくことが重要です。
・外国人従業員に現在どのような日本語学習支援を行っているか
・生活オリエンテーションの実施状況を記録しているか
・外国人従業員の家族への情報提供ができているか
・在留期間更新の管理と学習状況を連携できるか
・勤務時間内の受講を認める場合のルールをどうするか
・受講費用や教材費を企業と本人のどちらが負担するか
・特定技能、技能実習、育成就労などの既存制度との関係をどう整理するか
外国人の日本語能力や制度理解を高めることは、在留手続への対応だけでなく、職場内のコミュニケーション改善、労務トラブルの防止、安全管理、定着率の向上にもつながります。
今回のプログラムを単なる新たな規制として見るのではなく、外国人従業員が日本で安定して生活し、長期的に活躍するための人材育成施策として捉えることも必要です。