ビザジャーナル

2026-08-13

永住許可の審査が大きく変わります―新しい「永住許可に関するガイドライン案」を読む


出入国在留管理庁から、「永住許可に関するガイドライン」の大幅な改定案が公表されました。

今回の改定案では、収入、将来受け取る年金、日本語能力、日本の制度・ルールへの理解、子どもの就学状況など、これまでのガイドラインにはなかった具体的な考慮要素が多数追加されています。

単に永住許可の基準が少し厳しくなる、という程度の改定ではありません。

今回の案からは、「日本で長く暮らしているから永住を認める」という発想から、「将来にわたり日本社会の一員として安定して生活していけるかを総合的に審査する」という方向へ、永住審査の考え方自体を変えようとしていることが読み取れます。

なお、現時点ではパブリック・コメントに付されている「案」の段階です。


「永住者」は最も安定した在留資格だからこそ、慎重に審査する

今回のガイドライン案は、まず「永住者」という在留資格の位置付けから説明しています。

「永住者」は、在留活動にも在留期間にも制限がなく、その後の生涯を日本に生活の本拠を置いて過ごすことが想定される、最も安定した法的地位です。だからこそ、永住許可については「特に慎重な審査を行う必要がある」とされています。

さらに注目すべきは、「その者の永住が日本国の利益に合する」という国益要件について、単に日本の国益に反しないだけでは足りず、「積極的かつ具体的に」その外国人の永住が日本国に利益をもたらす必要があると明記されたことです。

永住許可を、単なる長期在留の延長ではなく、「活動・期間の制限のない地位を将来にわたって与えることが適切か」という観点から判断する姿勢が、かなり鮮明になっています。


収入は「日本人世帯の平均収入」が一つの基準に

実務上、特に大きな影響が予想されるのが収入要件です。

改定案では、独立生計要件について、「現在及び将来において自活可能」であり、「日本人と同等水準以上の経済条件」が求められると明記されました。

そして具体的には、申請者の属する世帯の年収が、世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準に、継続して達しているかが考慮されます。

注意したいのは、「年収○万円以上」という一律の基準ではないことです。
単身者と、配偶者や子どもを扶養している人とでは基準が変わります。

また、海外に居住している親族であっても申請者が扶養していれば世帯人数に加算されます。世帯人数が5人以上になる場合には、さらに生活費等の増加額も考慮されます。

一方、「家族滞在」など就労を目的としない在留資格の方が資格外活動によって得ている収入については、原則として世帯年収に合算しないとされています。

家族全体の収入を単純に合計すればよい、という話でもありません。


「今の年収」だけでなく「老後の年金」まで審査対象に

さらに大きな変更が、将来受け取る年金です。

申請者の年齢、これまでの年金加入期間、働き方、平均年収、現在の年収などから、将来受け取ることのできる年金額を推計します。
そして、その金額を、日本人世帯の平均収入を上回る水準の年収で30年間働き、厚生年金に加入していた場合に受け取ることのできる年金額と比較する仕組みが示されています。

不足する場合でも、一定の金融資産を保有していれば補うことができます。

つまり、これまで以上に、「現在生活できているか」だけではなく、「永住を認めた後、老後まで含めて安定した生活を維持できるか」を見る審査になります。


日本語能力は「B1相当」が一つの目安に

日本語能力についても、明確な基準が示されました。

原則として、「日本語教育の参照枠」におけるB1相当以上の日本語能力を有しているかが考慮されます。

ただし、すべての申請者について一律にB1が必須になるわけではありません。
高度人材外国人やその家族、日本で初等・中等教育を一定期間受けた人など、本人にB1相当以上の日本語能力を求める必要性・相当性が低い場合には、考慮要素としないことも明記されています。

したがって、「永住申請には日本語B1が絶対条件になる」と理解するのは正確ではありません。
とはいえ、日本語能力が永住審査の正式な考慮要素として明文化されること自体は、大きな変更です。


日本の制度・ルールを理解しているかも確認

さらに、申請者が日本の制度やルールを理解しているかも審査対象となります。

具体的には、出入国在留管理庁長官が指定する方法により、「生活・就労ガイドブック」に記載された事項を中心に、日本の制度・ルール等について一定水準以上の理解があるかを確認するとされています。

今後、どのような方法で確認するのかが重要になります。

単なる書類審査から、日本語能力や日本社会に関する知識も含めて「日本社会への適応」を確認する審査へと移っていくことが予想されます。


子どもを学校に通わせているかも審査対象に

学齢期の子どもがいる場合には、その子どもが小学校または中学校に通学していることも考慮要素となります。申請者自身が学齢期の場合も同様です。

つまり、永住審査は本人の勤務状況や納税状況だけを見るものではなく、家族単位で日本社会にどのように定着しているかを見る方向に進んでいます。


日本人・永住者の配偶者の特例も「3年+1年」から「5年+3年」へ

日本人、永住者、特別永住者の配偶者については、現在、原則10年間の在留を必要とする要件について特例があります。

現在のガイドラインでは、実体を伴った婚姻生活が3年以上継続し、かつ、日本に引き続き1年以上在留していることが特例の基準となっています。

今回の改定案では、これが、実体を伴った婚姻生活が5年以上継続し、かつ、引き続き3年以上日本に在留していることに変更されます。

日本人と結婚している外国人等の永住申請については、実務上かなり大きな変更になります。


特に注意―2026年4月以降に既に申請した人にも新しい基準が適用される可能性

そして、今回の改定案で特に注意していただきたいのが、適用時期です。

新しいガイドラインは、原則として2027年4月1日以降に行われる永住許可申請から適用されます。

しかし、すべての項目が2027年4月から始まるわけではありません。

ガイドライン案は、

①収入に関する基準
②「公共の負担とならないこと」に関する基準

について、

「ガイドライン改定日から6か月前の日以降にされた申請で、かつ、改定日において申請中である案件」にも適用するとしています。

ここは非常に重要です。

つまり、2026年10月にこの部分が改定される場合、2026年4月以降に永住申請をした案件で、10月の改定時点でもまだ審査中のものについては、新しい収入基準等で審査される可能性があります。

「私は4月や5月に申請したから、今回の改定は関係ない」とは限りません。

むしろ、現在の永住許可申請は審査に相当の期間を要することもあります。

そのため、今年春以降に既に永住申請をしている方こそ、この経過措置を確認する必要があります。

例えば、

2026年5月に申請

2026年10月の改定時点でも審査中

収入・公共負担について新しい考え方が適用

ということがあり得ます。

通常、制度改正というと「施行後に申請した人から新しい基準」と考えがちですが、今回の収入基準等についてはそうではありません。

既に申請を済ませている案件にも影響する可能性がある。

今回のガイドライン案の中でも、実務上最も早く注意しなければならないポイントの一つです。


永住審査は「これまで」だけでなく「これから」を見る方向へ

今回のガイドライン案を通して見えてくるのは、永住審査の時間軸が変わることです。

これまでも、在留期間、収入、納税、年金加入、法令遵守などは重要な審査要素でした。
しかし今回の案では、

・現在の世帯収入
・将来の収入
・将来受け取る年金
・保有する金融資産
・日本語能力
・日本の制度・ルールへの理解
・子どもの就学状況

などを通じて、「これまで日本で問題なく生活してきたか」だけではなく、「永住を認めた後も、日本社会の構成員として安定して生活していけるか」を見ることが、より明確になっています。

永住許可は、一度認められれば活動内容や在留期間の制限がない、非常に安定した在留資格です。出入国在留管理庁も、他の在留資格と比較して在留管理が大幅に緩和されるため、通常の在留資格変更より慎重な審査が必要だと説明しています。

今回の改定案は、その「永住」という地位をどのような人に認めるのかを、従来より具体的かつ広い観点から判断しようとするものといえるでしょう。

そして、これから永住申請をする方だけでなく、2026年4月以降に既に申請を行い、現在審査を待っている方についても、今回の改定は決して「将来の話」ではありません。

今後、パブリック・コメントを経て最終的にどのような内容で確定するのか、特に収入基準の具体的な水準や、日本語能力・制度理解をどのような方法で確認するのかを注視する必要があります。